相続税が支払えない時の延納と物納
この記事では、相続税が支払えないときに使える「延納」と「物納」という手段について解説します。
相続税の延納とは
延納とは、納税が困難な金額を限度として、相続税の納税を複数年に分割できる制度です。延納可能な期間は相続財産における不動産の割合によって異なり、最小で5年間、最大で20年間となります。ただし延納期間中は利子税の支払いが必要です。
延納の要件
相続税を延納するには、下記の要件をすべて満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えている
- 金銭で相続税を納付することが困難となる理由が存在する
- 延納税と利子税の金額に相当する担保を提供する(延納税が100万円以下で延納期間が3年以下ならば不要)
- 相続税の納付期限または納付する日までに、延納申請書と担保に関連する書類を税務署長に提出する
なお延納で認められる担保は下記に限られます。
- 国債
- 地方債
- 社債その他の有価証券で税務署長が確実と認定するもの
- 土地
- 保険がついている建物、立木、船舶など
- 鉄道や工場の財団
- 税務署長が確実と認定する保証人の保証
延納の手続き
延納をおこなうさいは、「延納申請書」、「金銭での納付を困難とする理由書」、「不動産などの財産の明細書」などの書類を税務署に提出します。
また延納時に提出する担保に関する書類も必要です。たとえば土地を担保とするさいは、おもに必要となる書類は下記です。
- 登記簿謄本
- 固定資産評価明細書
- 抵当権設定に必要な書類を提出する旨の申出書
相続税の物納とは
物納とは、延納の制度を使っても金銭で相続税を納税することが困難なさいに、納付を困難とする金額を限度に、不動産などの相続財産を代わりに用いて納税することです。
なお延納を受けたのちに延納の要件を満たすことが難しくなったさいは、申告期限から10年以内ならば、分納期限が到来していない相続税について物納に変更できます。
物納の要件
相続税を物納するには、下記の要件をすべて満たす必要があります。
- 延納を利用しても、金銭で相続税を支払うことを困難とする理由がある
- 物納できる財産の要件を満たしている(詳しくは後述)
- 管理処分不適格財産に当てはまらない
- 物納劣後財産に当てはまるさいは、他に物納に充てることが可能な財産がない
- 相続税の納付期限または納付する日までに、物納申請書と添付書類を税務署長に提出する
なお、管理処分不適格財産とは物納に適していない資産であり、この要件に当てはまるときは物納が認められません。たとえば不動産だと、おもに下記の要件を満たすと管理処分不適格財産となり、物納が認められないので注意しましょう。
- 担保権の設定登記が行われている
- 権利帰属について争いがある
- 境界が不明瞭な土地
- 隣接する不動産所有者との争訟を経なければ利用できない
- 借地権を有する者が不明の土地
- 耐用年数を経過している建物
- 他の土地に囲まれて公道に通じていない土地であり、通行権が不明確
- 他の不動産と一体で用いられている
また物納劣後財産とは、おもに下記に当てはまるものです。当てはまる財産は、他に物納できる資産がないときに限り物納が可能です。
- 地上権や永小作権、賃借権(耕作目的)、地役権、入会権が設定された土地
- 法令の規定に反して作られた建物や敷地
- 劇場や工場、浴場
- 法令の規定で建物を建設できない土地
- 事業を停止している会社の株式
物納の手続き
物納をおこなう際は、下記の書類を税務署に提出します。
- 物納申請書
- 金銭での納付を困難とする理由書
- 物納財産目録
- 物納手続きに関係する書類(登記簿謄本や公図、所在図など)
まとめ
延納や物納は、納税を伸ばしたり不動産などの財産で納税できる点で便利な制度です。ただし金銭で納付できない明確な理由がなくては認められません。また、満たすべき要件も複雑です。
金銭での納付が難しいさいは、税理士と相談しながら延納や物納が可能かどうかを検討しましょう。